大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和35年(く)47号 決定

少年 A

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由の要旨は、(一)少年は生来病弱であり、中学校を卒業した後も精神薄弱のため、劣等感を持つていた、(二)少年は心身耗弱の状態にあつたものであるに拘らず、その自白を証拠に採用した原決定は不当である、(三)原決定が昭和三十三年三月二十三日の放火事件を被告人の所為に帰しているのは重大な事実の誤認であるというのであるものと解される。よつて、少年保護事件記録、少年調査記録及び証拠物を精査検討するに、少年が生来病弱であり、憂鬱病的傾向を有し、知能面の低劣なことは明らかであるけれども、さればといつて、少年の司法警察員及び検察官に対する各供述調書並びに裁判官及び家庭裁判所調査官に対する各陳述の任意性を否定することのできないのは勿論、その信憑性を疑うことができず、有力な補強証拠と相俟つて原決定認定の事実は昭和三十三年三月二十三日の放火事件をも含めてすべてこれを肯認することができ、右認定を左右するに足るべき証拠を発見することはできない。而して、少年の親族には少年を保護するに十分な能力を有する者がなく、生活環境も良好でないから、かかる少年は規律ある生活に馴致させるため、その後の事情に応じ適当の時機に医療少年院その他に転送することは格別、一応中等少年院に送致するのが相当と思料されるから、原決定には法令違反、事実誤認又は処分不当の違法はなく、本件抗告は理由がない。

よつて、少年法第三十三条第一項に則り本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 山田要治 判事 滝沢太助 判事 鈴木良一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例